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「それじゃあ、2人とも家に送って行くけど良いかな?」
「あぁ、俺はそれで」
「あの、朝陽さん。その……ついでにと言いますか、少し聞きたい事があるんですけど」
朝陽さんがミラー越しに秋葉原さんと目を合わせた。何かを察したのか、朝陽さんは小さく頷いた。
「それじゃあ、一旦翔希を家に送ってから私の家に戻ろう。それで良いかな?」
「俺は同じ事だし全然オッケー」
俺はあえてそう答えた。俺がいない方が都合が良さそうだ。朝陽さんもそう思ったみたいだし、俺は何も気にしてない素振りを見せておくのが正解だろう。
車が朝陽さんの家を通過したところで、俺は鞄を肩に掛けた。もう1分もせずに俺の家に着く。まだ外は大雨だ、車から出て家の中に入るまでの数秒でもかなり濡れる。準備を万端にして1秒でも早く入れるようにしておこう。
「サンキュー! んじゃ秋葉原もまた学校で!」
「歴史のテストの結果は報告してくれ」
「了解!」
そう言い車から出て俺は全速力で家のドアに向かった。ドアを開けて中に入り、すぐにドアを閉める。
「ふー、これでも結構濡れたな……ただいーー」
髪に付いた雨水を手で払いながら振り返ると、玄関を上がったすぐそこで何かが横たわっていた。
「…………七海、ただいま」
返事はなかった。背中がゆっくり上下しているのを見るに、どうやら眠っているらしい。嫌な事があった時玄関で倒れるのは七海のクセだ。そして大抵そのまま眠ってしまう。
そしてこれが出るのは聞いてほしい嫌な事があった時に限る。七海も今日がテストの最終日だ、つまりたぶんそういう事だろう。
「七海、起きろ。寝るのは着替えてからにしな」
七海の背中を軽く叩く。制服はほとんど濡れていなかった。乾いたのではなく、たぶん玄関に立てられているずぶ濡れの傘が守ってくれたんだろう。
「うぅ、おにぃ……私はどうしてバカなんだろう」
「げ、元気出せ」
予想通り、テストの結果が悲惨だったみたいだ。まぁ中学のテストは結果がどうあれ卒業できない訳じゃない。進路にはまぁ、多少の影響は出るけど。
「今度数学の抜き打ちテストがあるんだよ……範囲は中1から今まで全部だって言うんだよ、30点以下だったら夏休みに補習だって……」
「それ抜き打ちじゃないなぁ」
「テストが終わった瞬間に言わなくても良いじゃん……」
うつぶせのまま唸る七海に対して言う。とはいえ2年と1学期分は大変だ、俺も自信がない。
「朝陽さんに教えてもらおうか」
「あの人こわい……」
俺は「まぁまぁ」と七海の頭にプリンを乗せた。七海は朝陽さんが昔から苦手だ。まぁ相性ってやつだろう。朝陽さんは微塵も気にしてないけど。
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