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「七海、晩飯だぞー」
2階に行きドア越しに声を掛けてみる。返事は無い、まだ寝てるみたいだ。
「……あれ」
ドアを開けると、想像と少し違う光景が目に入った。思った通り七海は寝ていたが、ベッドの上ではなく机に座り、顔を伏せて眠っていた。しかも制服のままだ。
机の上には数学のノートと教科書が広げられていた。ノートを見るに、問題を解いている途中で力尽きたらしい。
「ったく、今日ぐらいゆっくり休めば良いのに……七海、起きろ」
肩を揺すると七海はゆっくりと顔を起こした。
「おにぃ……私いつから寝てたんだろ」
「うーん、どうだろうな。俺もずっと寝てたからなぁ」
ノートの状況からしてたぶん勉強を始めてほとんど時間が経たずに寝ているけど、それを言うとへこみそうだから言わないでおく。
「晩飯だってさ」
「はぁい、片付けたら行く」
少し寝ぼけた声で返事をした七海の頭を軽く叩き、俺はリビングに戻った。ハンバーグとチーズを焼いたの匂いがする。
何となくスマホを開いた所で尚斗にLINEを送った事を思い出した。通知は無く、トークの画面を確認したら既読も付いていなかった。
「まだ寝てるか……1人暮らしだしなぁ」
夜になっても誰かに起こされる訳じゃない。もしかしたら朝陽さんが面白がって様子を見に行ってるかもしれないけど。
「何あんた、1人暮らししたいの?」
「いや、俺は飯が出てくる環境は捨てらんねぇわ」
「あんたも七海も料理は駄目だからね。あんたなんか包丁を持たせたくもないわよ危なくて」
「うっわ、ひでぇ」
「もし1人暮らしで包丁使う時は刃を石で叩いて刃零れさせてから使いなさいよ。切れ味が悪かったら切り傷で済むから」
母さんがそう言ってテーブルに料理を置いた。あまりにも酷い言い様だけど包丁を使ったら間違いなく指を切るのは俺自身よくわかってる。実際中学のキャンプでやらかしたし。
すぐにリビングに七海がやってきた。それを一目見るなり母さんが眉を潜める。
「あ、七海あんた制服のまま寝ないでっていつも言ってるでしょ。シワになったら面倒なんだから」
「ごめんなさぁい」
まるで反省していなさそうな声でそう返し、七海が椅子に座って録画リストのままだったテレビのチャンネルを変えた。明日の朝には雨は止むようだ。
「テストはどうだったの?」
「赤点……かなぁ」
「中学に赤点は無いぞ?」
「え、そうなの? なら良いや」
「よくないのよ……」
「っていうかおにぃ、赤点って何?」
「そりゃーあれだ……点数が赤いんだ」
視界の隅で母さんが思いっきりため息を吐いた。い、いや、知ってるけど。でも何か、ちょっとだけ欠点との区別が難しいと言うか。
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