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「成績って言えば、七海は今度数学のテストなんだよな」
「うっ、忘れてたのに……」
「え、またあるの? それ成績に関わる?」
「30点以下なら夏休みに補習だって……」
「補習だけなら良いけど……そこまでするなら成績にも響きそうよねぇ。成績が悪いとそもそも推薦受けれないのよ?」
「……おにぃたすけて」
「数学は俺もヤバい」
正確には数学もだが。というか、ヤバくない教科の方が見当たらない。
「……テストはいつ?」
母さんが七海に言った。手にはスマホが持たれている。
「さ、再来週の月曜日……ねぇお母さん。まさか……」
母さんがスマホを動かし、しばらくして溜め息を吐いた。安堵の溜め息だとすぐにわかった。
「来週の土曜日、音無さん来てくれるから教えてもらいなさい」
「そんなぁ~」
「はっはっは、頑張れ七海! 合宿よりはマシだ!」
「うぅ、お母さんが教えてくれても良いのに」
「ダメよ、もう全部忘れたもの。お父さんも」
あっさりそんな事を言う母さんに七海は絶望の表情を浮かべた。
「大人になったらいらない勉強なのにどうしてこんなに頑張らないといけないの……」
「大人になるまでは使うからだぞ。少なくとも受験には必要だろ?」
朝陽さんに言われた事をそのまま言う。七海は頷いたけど、やっぱり納得していなさそうだった。七海が納得するような良い答えを今度朝陽さんに聞いてみよう。
「翔希、あんたもついでに見てもらったら?」
「いや、俺はあれだ。別にこれから夏休みまでテストなんか無いから大丈夫。七海をちゃんと見てもらおう」
「あー! おにぃずるい!」
「ま、今回は観念して勉強する事ね……あっ」
母さんがスマホを見た。何だか嫌な予感のする笑顔をしている。
「……七海」
母さんがにこりと笑ってスマホの画面を七海に向けた。横から覗き込むと、朝陽さんからのメッセージが映っていた。
『80点以下なら夏休み中私が補習しましょう』
「は、はちじゅう……?」
七海が口を半開きにしたまま俺を見た。七海が数学のテストで80点を取った事は1度も無い。
それからの七海は心ここにあらずで、一昔前のロボットのようなぎこちない動きで夕飯を食べていた。さすがに少しかわいそうだったけど母さんは「ありがたいわぁ」とスマホに手を合わせて拝んでいたので撤回は難しそうだった。
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