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部屋に戻りベッドに寝転んだ。半分ほど残して先に戻ってきたから七海はまだリビングで絶望しているけど、勉強は七海の為にも必要な事だから仕方ない。
天井を見ながらスマホを手に取って確認してみると、朝陽さんから着信が届いていた。ほんの数分前だ……って事は七海の事だろう。
折り返し電話を掛けると、数秒で朝陽さんが出た。
『夜に済まないね、頼みたい事があるんだ』
「あぁ、大丈夫。秋葉原さんはもう帰ったのか?」
『車の中でほんの数分話しただけさ。ところで、君は数学が嫌いかな』
俺は頷きながら即答した。
『なぜ?』
「何故って……難しいし、よく分からないし、役に立たないだろ。毎日生きててあそこの角度知りたいなぁとか思った事ねぇしよ」
『なるほど。確かにそうだ。池の周りを走る兄弟もいないし、無限に動き続ける点Pも存在しない』
「うんうん。生活に必要無い」
『それは何故だと思う?』
「え? 何故って、いらないからじゃないのか?」
『何故いらないかを訊いてるんだよ』
「えぇ……」
考えたがまるで答えが出なかった。いらないもんはいらないだけじゃないのか?
『今週末までに考えておく事。さて、本題だが七海の数学の今までのテストとノートをその時までに用意させておいてくれ。過去の物は捨ててしまっているのならそれで良い』
俺は釈然としない気持ちのまま「わかった」と返した。もちろんその頼みの意図はわかっている。俺に勉強を教えてくれた時と同じだろう。
数学がいらない理由か……いや、全く必要無い訳じゃないのはさすがにわかる。計算は生きていく上で役に立つ。でも、今回のテストで出た合計の値段からミカンとリンゴの個数を当てる問題とか、絶対に生きてて使わない。何だよ1個80円のミカンと1個120円のリンゴを合計110個買って合計が10000円だった時のそれぞれの個数って。レシート確認しろって心の中で叫んだよ俺。
「……これ、七海が言ってた事と同じだな」
大人になったらいらない勉強なのにどうして頑張らないといけないのか。まさに同じだ。使わない事を学ばなきゃいけない理由。
…………駄目だ、わからねぇ。こればっかりは朝陽さんにそれらしい答えを言われても納得できねぇ自信すらある。
それからも七海の足音が聞こえるまでしばらく考えていたけど、やっぱり納得できる答えは見付からなかった。
七海に朝陽さんに言われた事を伝えに行こう。そう思ってベッドから立ち上がると、再びスマホが鳴った。また電話だ、朝陽さんか尚斗か……。
「ん?」
画面を見ると知らない番号だった。間違い電話か……?
少し迷ったがあまりにも着信が長いので出る事にした。そして聞こえてきた声の主は、本当に予想もしなかった人だった。
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