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恐る恐るテストの結果を開き、安堵の溜め息を吐いた。良いとは言えないけど悪くはない。普通と言われればそうだけど、問題無しとも言える。
「なぁなぁ尚斗、夏休みどーするべ」
心底楽しそうに翔希が訊いてきた。テストの結果は本人にしては上出来だったらしく、ずっとご機嫌だ。どうやら欠点は逃れたようだ。
まだ2週間ほど先だが、もうそこまでに大きな行事は無い。翔希だけじゃなく、他の生徒ももう夏休みの事を話し始めている。
「夏休みかぁ……」
「何だよ、浮かない顔して」
翔希が怪訝な顔をする。それもそうだ、夏休みと言えば40日間も学校が休みになる、全国の学生で1番嬉しい時期だろう。俺だって去年までは夏休みなんて楽しみで仕方無かった。
でも、夏休みというのはつまり学校に来ない訳で。そうなれば当然、クラスメートに会う事もない。つまり……。
「……ははーん、春川さんに会えなくなるって凹んでるな」
「い、言うな!」
「お、図星だ」
楽しそうに笑う翔希を見て溜め息が出た。返す言葉がないぐらいその通りだ。
デート……と言えるのかわからないが、一緒にご飯を食べに行った先週末から約1週間経ち俺と陽菜さんの関係は……一切変わっていない。というか、1週間喋っていないのでゲームだったら好感度が下がっている可能性すらある。
「お前さ、どうしてデートした後気まずくなってんの? 次の日はそれなりに上手くいったって言ってただろ」
「そうだけどさぁ……なんて言うか、思い出したらそう思ったのって俺だけな気がして……」
駅では俺といたら嫌な噂立てられるんじゃないかなんて答えに困る事を言って、喫茶店では一緒にいるのが夢みたいだとか夢みたいな事を言って、ケーキ屋では苦いケーキに気を取られてろくに話してない。挙げ句の果てには傘を盗まれて気が動転して喚き散らして……冷静になって思い返すと本当に消えてしまいたくなる。
「大体、大雨だったら延期で良かったんじゃないかって……土曜日は晴れてたんだし」
「まぁまぁ、過ぎた事くよくよしてたって良い事無いぜ」
「そうだけど……」
「ん?」
そんな事を話していると、翔希が教室の入口に目を向けた。クラスの空気が一瞬で変わったのがはっきりとわかった。
「え、え?」
「だから、春川って子いる?」
そう言われたクラスメートがゆっくりと陽菜さんを指差した。呼ばれた事に気付いた陽菜さんがそっちを向く。
そこにいたのは大柄な男子生徒だった。ネクタイの色が緑……3年生だ。鋭い目付きで陽菜さんを見ると、ゆっくりと手招きをした。
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