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「上手くいく保証が無いんだよな、相手が相手だし」
俺から目を放して翔希がそう言った。
「そ、それってどういうーー」
「とにかく、明日からしばらく今言ったようにしよう。で、その間どうにかできる方法を考える」
俺の言葉を遮るように翔希が言った。その目が何かを訴えかけていたので、俺は一旦話すのをやめ頷いた。
「とりあえず今日は帰ろう。ちょっと歩くけど1つ隣の駅から乗れば大丈夫だと思う」
「明日からも隣の駅の方が良いんじゃない?」
「うーん、それもあるけど……何かあった時が面倒なんだよ。最寄りの駅は学校の目の前だから生徒も多いし、仮に鉢合わせてもよっぽど大事にはならないと思うんだ」
「……確かに。わかったわ」
秋葉原さんが頷いた。全員で席を立って出ようとすると、翔希が俺の肩に手を置いた。
「一応外見てくる。ラインするわ」
翔希がそう言って1人で外に出た。しばらくしてグループのラインに『OK』の文字が打たれた。
「そうだ、会計……」
「あ、俺が出すよ」
「そんな、悪いわよ」
「注文しちゃったの俺だし。飲まないかなとも思ったんだけど」
そう言って伝票を取った。ドリンクバーだけなので1000円程度だ。
「……本当に良いの? ありがとう」
「ありがとう、音無君……ごめんね、大変な事に巻き込んじゃって」
「いや、全然。その……」
俺は陽菜さんを見た。一緒にいたのに、今日話したのは今が初めてだ。俺が情けないせいだ。
「たぶん俺、頼りないと思うんだけどさ……でも、何とかしたいし、その為なら何でもする」
「……うん」
「って、何とも情けない事を言ってるって自分でもわかってるけど……」
「でも、本気よね?」
秋葉原さんの言葉に俺は頷いた。
「もちろん」
俺はそう言ってレジに向かった。ドリンクバー代を出すなんていう些細な事でも、何かしているという実感が欲しかった。
「悪い、何か頼んでくれてたのか」
「いや、大丈夫。行こう」
翔希にそう言い、4人で駅に向かって歩いた。
「春川さん、明日からの事でちょっと良い?」
「あ、う、うん」
翔希に呼ばれ陽菜さんが隣に行った。その後ろで俺と秋葉原さんが並ぶ形になった。
「その、秋葉原さん」
「何?」
「さっき溜め息を吐いてたのは、俺が何の役にも立ててなかったからで、巻き込まれた事が嫌とかじゃないから」
そう言うと、秋葉原さんはきょとんとした顔で立ち止まった。
「……言えないっていうのは、陽菜には言えないって事なのね」
「あぁ……うん」
そう頷くと、秋葉原さんは小さく笑った。自分で言った事なのに何だか急に恥ずかしくなってきた。
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