8ー1 危機

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  「ここまで来といて何だが、俺が知ってるのはその程度だ。海部、 何か収穫はあったか?」 「んん、やっぱり一匹狼なんすね。予想はしてたけど、それがわかったのは収穫っす」 「予想はしてた?」 「そりゃあさ、群れるタイプだったら春川さんのとこにも大勢で来るだろ? その方が言う事を聞かせやすいし」  翔希が説明した。確かにそうだ。あんな人が大勢いたら溜まったもんじゃないから良かった……と思ったけど、翔希は浮かない顔をしていた。 「群れるタイプの方が1人でいる時に詰めれば何とかなったんだけどなぁ」 「1人でいるヤツっていうのは、1人でも問題が無い訳だからな。ああいう輩は単独でいるヤツの方が厄介だ」  翔希の小言に榛葉先輩が返した。話を聞けば聞くほど背筋が寒くなってくる……。 「あ、あのさ。誰か大人に相談とかじゃいけないんですかね。先生とか、何なら警察とか……」  恐る恐る言うと、2人は一瞬お互いに顔を見合わせ、首を振った。 「少なくとも、今は無駄だ。むしろ逆効果になりかねないな」  翔希がそう言い、榛葉先輩がそれに頷いた。 「警察が動くのは基本的に何かが起きてからだ。少なくとも今は武畑が春川に電話番号を聞いただけだ、相談して動いてくれる程じゃない」 「じゃあ、先生はーー」 「こういう事に関して、うちの教師は期待するな」  俺の言葉を遮るように榛葉先輩が言った。 「ヤツが補導された事をお前達は知らなかっただろう。学校が何も説明していないからだ。本人への処分も無し。基本的に生徒のトラブルに関しては事無かれ主義なんだ」 「そ、そんな無責任な……」 「ある意味では正しいさ。たった1人トラブルを起こしただけだとしても、場合によっては企業や大学の評価がガタ落ちする。そうなると困るのは生徒達だ。なら、多少のトラブルには目を瞑ってしまった方が良い」  榛葉先輩の説明は納得はできなかったが、確かに間違ってはないように聞こえた。 「むしろ、先生に言ったりした事がバレた時がヤバそうだな」 「恐らく逆上するだろう。その矛先がこちらに向けばまだ良いがな」 「ど、どういう事ですか?」 「下手したら、その怒りが春川の方に向くって事だ。お前達に相談したせいでこうなった、などと因縁を付けてな。ヤツならそうなりかねん」 「そんな……」  俺は思わず声を漏らした。そんなのはあまりにも理不尽じゃないか。陽菜さんはただ巻き込まれただけなのに。 「そんじゃあまぁ、榛葉先輩の話も終わったんで本題に入りますか」  横で翔希の声が聞こえた。そっちを向くと翔希は俺の方を向き、少しだけ笑った。  
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