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「あはは、全然こっち見ないなって思ったけど本当に気付いてなかったんだね」
「春川さん1回怒って良いと思うよこれ。気合い入れる意味でビンタの1発でも」
「そ、そんな事しないよ~。音無君ごめんね、大丈夫?」
「だ、大丈夫。あれ、なんで……」
なんで陽菜さんがここにいて一緒に弁当を食べてるんだ? 翔希が笑わなかったら本当にそれを言ってしまっていそうだった。
「あのな、朝教室に入った時に言ったろ。昼休みに武畑先輩が来る可能性あるから弁当は俺らと一緒に食うって」
「そ、そうだっけ……」
「頼むぜおい……」
翔希が呆れたように溜め息を吐いた。そう言えば席に着くなりそんな事を言われた気がする。
「あれ。翔希、他にも理由があるとか言ってなかった?」
「なんでそこだけ覚えてるんだよ! そっちは気にしなくて良いんだよ!」
翔希がそう言って俺の肩を強めに叩いた。何を言ってたか確認しようとした所を翔希が「それで」と遮ってきた。
「春川さん。武畑先輩から連絡は無い?」
「うん。今日は1回も無いよ」
「そっか。うーん、すんなり諦めてくれてれば良いけど、さすがにそれは考えられないよなぁ……」
翔希が首を傾げた。連絡が来ないのは良い事だけど、全く無いのはそれはそれで怖い。一体何を企んでいるんだろう。
「もし授業中LINEが来たらスクショしてグループに貼り付けてよ。返事はそれから全員で考えよう」
陽菜さんが頷いた所で昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。自分の席に戻っていく陽菜さんの背中を眺めていると、背中を叩かれた。
「お前、朝気付かなかったか?」
「え、何が?」
「春川さん、他の女子に避けられてるんだよ」
「えっ?」
俺は翔希から再び陽菜さんに目を向けた。
「原因は間違いなく昨日のだろうな。嫌われてるワケじゃなくて距離を置かれてるだけだけど」
「そんな……春川さんが悪い訳じゃないのに」
「仕方ねぇよ、誰だってあんなのに絡まれたくねぇ。俺らが気にしなきゃいけないのは、武畑先輩の事が解決した後にすんなり元の関係に戻す事だ」
「……っていうのは?」
「春川さんをなるべく俺らと一緒にいさせる。そうすりゃ女子は俺らに呼ばれてるから仕方無いっつー大義名分で距離を置けるし、罪悪感も持たなくて済む。で、そういうのが無けりゃ元の関係に戻りやすい。都合が良くて気に食わねぇかもしれねぇけど、悪いがお前の機嫌なんざ二の次だ」
その言葉に俺は頷いたけど、翔希の言う通りあまり納得はできなかった。都合の悪い時だけ距離を置くっていうのは、それは何か違う気がする。
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