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「これがさっきはぐらかした他の理由だ。当たり前だけど春川さんに絶対言うなよ。これは春川さんに気付かせちゃ駄目だ。結構なダメージになると思うからな」
翔希はそう言うと机の上に勉強用具を出した。相変わらず俺と違って達観していると言うか、周りがよく見えてる。
「翔希」
「ん?」
「……友達って、辛い時こそ一緒にいるべきじゃないのかな」
「辞書にそう書いてあんのか?」
翔希は少し呆れたような笑い方をした。
「楽しいから一緒にいる、都合が悪い時は別。人によっちゃ友達なんてそんなもんだ。誰だって他人の面倒事になんて巻き込まれたくねぇよ」
翔希の言葉に何も返せず、俺は前を向いた。下を向くと自然と溜め息が出た。
「でもまぁ、俺はお前と同じように思ってるぜ。だからこそ、俺らは離れずに春川さんと一緒にいる。そうだろ?」
「そう……だよな。ごめん、愚痴みたいな事言って」
「お前は他に春川さんを守ろうっつー余計なライバルがいねぇのを好都合って思うぐらいで良いんだよ」
翔希はそう言って俺の背中を叩いた。あまり納得はできなかったけど、だからと言ってどうにかなるような事でも無いので俺もそう思い込むようにした。
確かに、他に誰か男子が陽菜さんを守ろうとして……なんていう展開になっても困る。しかもそれがあの武畑先輩よりも強そうな人だったりしたら……。
「…………」
「どしたよ、急に固まって」
「いや、その……頼れる人って言ったらあの人はどうかなって。その、春川さんに受験勉強を教えてた2年生の」
「一ノ瀬先輩か……やめといた方が良いな。運動神経は良いって話だけど喧嘩するようなタイプじゃなさそうだし」
「それもそうか……」
言われてみれば確かに優等生タイプで喧嘩なんてしそうにない。あの人だったら彼女もいるし陽菜さんの事だったら味方になってくれそうなんだけどな……。
「それに春川さんとしたってあんまり大事にはしたくないだろうしな。世話になってる人は余計に巻き込みたくないと思う。ただ……」
翔希はそこで言葉を止めて前を指差した。そっちを見ると先生が教室に入ってきていた。
翔希は小声で「都合がついたら当たってみるわ」と言い、机に教科書とノートを取り出した。俺も頷き、前を向いて同じように教科書類を出した。
午後の授業も相変わらず眠気と疲労との戦いだった。唯一良かったのは成績を付け終わっているのか、あまり先生も注意するつもりが無さそうな所だ。
陽菜さんからラインが届いたのはそんな朦朧とした意識で受けていた6限の事だった。スクショが貼られていて、そこには『放課後教室行くから待ってて』というメッセージが書かれていた。
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