想いを胸に、散りゆく

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「ハァ、ハァ、ハァ…」 森の中を、息を切らしながら、若武者が一人歩いていた。 歳の頃は、二十歳には届いていないだろう。 兜は脱げ、立派で美しかったはずの大鎧も、緒が切れてずり落ちていたり、引きちぎったような跡の残る部分もある。 経俊(つねとし)は、弓を時折杖のように突きながら、片足を引きずって歩いていた。 「ハァッ、ハァ…う…」 傷が痛むのか、顔を歪ませる。 矢傷は足だけではないし、切り傷もあちこちに付けられている。 …先程までは一人じゃなかった。昔馴染の従兄弟が二人、傍らにいた。 だが、先程共に敵陣に突撃した際に、二人は奮戦の末討ち取られてしまった。生き残れたのは、自分だけ。 二人共、弱くはなかった。 敵が多過ぎた、というだけ。 自分だってこうして生き残れたのは、運が良かったとしか言いようがない。 「っ…あー!」 息を大きくついた際、やり切れなさの滲む声が漏れた。 頬を伝うものに気付いて、乱暴にぬぐった。 …他は、どうなったんだろう。 源氏が奇襲をしてくれた御蔭で、本陣は総崩れになったらしいことは何と無く聞いていた。 父や、兄、弟、他の従兄弟、伯父達や、それに…。
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