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こいつ…!
彼のまとう「気」は、今まで感じたことのない「気」だった。
腹の奥底から、言いようのない恐怖が込み上げてくるのを、うっすら感じていた。
援軍、じゃない。
平家方なら、このような鎧を着る者を自分が知らないはずがない。目の前の男は、…敵方だ。
経俊は弓を落とし、腰の太刀に手を掛ける。
…逃げられない。
こいつと戦わずに済む方法は、ない。
目が合った時、瞬時にその力量を悟った。
「お前、…紅か、白か」
「白、だが」
やはり。
旗印の色を尋ねたら、案の定敵方の旗印の色だ。
願望は、断たれた。
「貴殿は?」
「…紅」
ああ、言ってしまった。
もう逃げられない。
そもそも傷付いた身体で、逃げ切れるとは思えないが。…いや、傷付いていなくても、彼と対面した時点で、戦う以外に突破する方法はない。
太刀を握る手に、知らず知らず力がこもる。
彼は、間違いなく、強い。
それも、今まで自分が相対した中で、一二を争う程。
唾を、飲み下した。
傷の痛みを忘れる程に、目の前の青年に引き付けられていた。
「…左様か。――平家方の将と、御見受け致す。貴殿の名を伺いたい」
「…断る!」
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