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経俊は一気に太刀を抜き上げ、青年目掛けて斬り掛かる。
――…帰りたい。
可愛がって飼っていた鷹は、都を出る時に放した。犬達も人に預けて来た。
郎党達は皆討たれているだろう。長年親しんできた者も、兄も、弟も、もしかしたら父さえも、既にいないかもしれない。
…苦い思いを味わいもした。
それでも、帰りたい。
迎えてくれる者が、いなくても。
自分が帰れる場所へ、帰りたい。
こんな所で、終わる気はない。
まだ終わりたくない。
音楽を諦め、武芸に打ち込んできた節があるのは、自覚している。自負もなくはない。
乾坤一擲(けんこんいってき)。
満身創痍で、突破できるか。
――突破、したい。
帰ったら、その後は…。
都に残してきたあの子に、もう一度――。
「…っ!!」
赤が、散る。
あいつじゃ、ない。
…俺だ。
一太刀目はかわされ、二太刀目を振るう頃には、…更に傷付けられた挙げ句、背後から貫かれた。
「がっ…は…っ」
吐いた血が口許を伝い、落ちる。
いつ青年が太刀を抜いたのか、わからなかった。…見えなかった。
…ああ、やっぱり無謀な賭けだったか。
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