0人が本棚に入れています
本棚に追加
らしくない。
こんな無謀な賭けに挑むなんて。
本物の奇跡を、信じるなんて。
力が、全身から抜けていく。
「……」
青年は無言で、太刀をえぐり、抜いた。
支えを失い、その場に倒れ伏す経俊。
…せめて、目の前の男を倒すだけでも、いや弓を二度と引けなくさせるだけでも、できていたら。平家のこれからのためにも、良かったのだろうに。
血が失われてかじかんだ手が、掴むように僅かに動いた。
欲を言えば。
もう一度、もう一度だけ――。
瞼(まぶた)が重くなっていく。
「…………許せ」
青年が何か呟いたようだったが、経俊の耳にはもう届いていなかった。
意識が薄れていく中、最後に感じたのは、…白刃を振り上げられる気配。
(終)
最初のコメントを投稿しよう!