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夜になって 少し落ち着いた私は、ようやく荷物の片付けを始めた。 私の部屋は、基本的には出ていったときのまま残されている。 だからそこに、マンションから持って帰ってきたものをなおしていく作業だ。 気が重くて、ノロノロと愚鈍な動きになってしまう。 明日は仕事。 あまり夜更かしは出来ないから、早く済ませないといけないのに。 ああ……何もかもが億劫だ。 「……あ……」 そんな整理の途中。 机の引き出しの中から、懐かしいものが出てきた。 「……これ……高校のときの……」 それは一本のビデオテープ。 ラベルには『ホワイト・クリスマス』と書かれている。 今から10年前。 高校3年生のとき。 文化祭の出し物として、クラスで撮影した短い映画だ。 主演は私。 相手役は、クラス委員の金沢くんだったかな。 そして…… 『青井ー!! 何やってんだ! そこはそうじゃねーよ! もっと感情こめろー』 『もう。うっさいな、朝倉! 無理だって、私は女優じゃないもん』 『お前ならできる!! 間違いない!!!』 誰より熱心に声をはりあげ、カメラを回していた、この映画の『監督』は朝倉。 朝倉 朔真(あさくら・さくま) 彼の飄々とした笑顔を、思い出した。
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