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「お電話ありがとうございます。ホープ食品・青井でございます。
……はい、いつもお世話になっております」
ひっきりなしに電話が鳴るオフィス。
年末が近いということで、うちの会社も忙しい。
私が働いているのは、業務用食材を扱う食品会社。
部署は、営業部の管理課。
いわゆる『営業事務』だ。
大学を卒業してすぐに就職したので、かれこれもう6年になる。
事務職で6年というと、うちの会社ではかなりの古株で、私の部署は後輩ばかり。
唯一の先輩は、直属の上司。
勤務20年を越えている、超ベテランの人だけだ。
貫禄があって、かなり厳しく、言葉もキツイ。
……まあ、お局様ってやつです。
そのせいか、部署の後輩や、営業の人たちは、ことあるごとに私に相談を持ちかけてくる。
そこそこキャリアもあって、なおかつ『お局様』ほど厳しくない私は、面倒ごとを頼むのにはうってつけなようだ。
「青井さーん! グリーム食品が、注文と違う荷物が着いたって言ってるんですが……」
「物流部に連絡して、何が発送されたか確認して。
それからグリームに、正しい商品はいつまでに必要か聞いてみてね」
「はい……!」
「青井さん! おれ、ちょっと今から、埼玉に直接納品行かないといけなくなったんだ。
悪いけど、すぐに納品書切ってくれない?」
「わかりました。手書きでいいので、受注書をください。
あ、あと広瀬係長! 先日の件、早く見積もりを上げてください。商品登録が出来ません」
……そんな風に忙しく働いているうちに、あっと言う間に時間は流れる。
あと30分もしたら昼休憩で、午後からは納品書の発行と、15日締めの請求書の照合と……
あ、あと、赤伝処理もだ。
「……えー、チケット取れたの? すごいじゃん!」
「でしょ! 無理だったらヤフオクかなーって思ってたよ」
斜め前の席から、同じ課の後輩たちの楽しそうな話し声が聞こえる。
(……しゃべる余裕があるなら、発注書の確認でもしろよ!)
決して悪い子たちではないけど、イマイチ気が利かないというか、緊張感が足りないと思うことがよくある。
しかも、奥の席からは『お局様』がにらんできている。
これは……私が注意しないとダメか。
「…………はあ」
小さくため息をつきながら、どう言えば角が立たないか頭をフル回転させた。
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