先生と僕 ① 

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「そうか、臨時兵か。それは凄い。いや、君ならそれくらいは当り前か」  先生が真面目な顔でそんなことを言うものだから、僕はもう苦笑するしかなかった。  臨時兵のどこが凄いものか。他に仕事が無いあぶれ者が仕方なく日雇いでお城の雑用をしているだけだ。薪割り、ごみ拾い、炊事洗濯、なんてのはまだ全然良いほうで、ドブさらいから馬の排泄物の始末までやらされる。臨時兵なんてもっともらしい名前が付いているが、斬り合いはおろか訓練さえしたことがない。  それでも先生が嫌味や皮肉で言っているのでないことはわかる。先生から見れば、日当で働く臨時兵でもきっと随分まっとうな仕事に見えるに違い無い。  「これも先生の道場で鍛えてもらったおかげです」  僕が半分社交辞令でそう言うと、先生はまたまた大真面目な顔で首を横に振った。 「いや、それは違うよ。君がお城で兵士として雇ってもらえたのは、君が頑張ったからさ」  先生が四年前と全く変わらない調子なので僕は嬉しくなった。 「先生は今もあの道場ですか?」 「ああ、私はあそこ以外に行くところが無いからね」  僕が十二歳の時から二年間通ったシンツネル剣術道場は、街の外れの原っぱにポツンと建っていた。道場というより農家の土間に適当に板を敷いただけと言った方が良いような、狭くて汚い道場だった。実際、廃屋になっていた農家を先生が役所の許可を得て借りているという噂も聞いたことがある。が、まぁ本当のところはどうなのかわからない。
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