先生と僕 ① 

5/5
前へ
/34ページ
次へ
 そんな道場だから、ちゃんと剣術を習いたい者は1~2ヶ月で大概皆辞めて行く。僕のように二年も通った弟子は他にはいない。街の中心部にはチバ道場という王国随一の大道場があるのだから、わざわざこんなグータラな先生に教わる必要は無いのだ。  ショウイン先生と違い、チバ先生は王様や王妃様とも懇意で、城の守備兵や騎士達にも出張で剣術指南をするくらいの名士である。チバ先生に教えを乞うために、国中から剣を志す若者が都に出て来る。僕がチバ道場ではなくシンツネル道場に入門したのは、月謝が安かったこともあるけれど、本当の理由は、全国から出てきたツワモノ達が鎬を削るチバ道場に弟子入りする度胸が無かったからだった。 「久しぶりに先生に酌をしながら話が聞きたいなぁ」  僕はお世辞でも社交辞令でもなくそう言った。 「マナデール君ももう十八だろう? それなら酌だけじゃなく一緒に飲めるな。うんうん。それは楽しそうだ」 「そうですね。でも僕は酒というヤツがあまり好きじゃないみたいです」  臨時兵仲間で時々飲み会をやるが、僕はどうも酒と言うヤツが美味いとは思えない。まあ、見るのも嫌というほど嫌いなわけではないのだが、わざわざ金を払ってまで飲みたいと思わないのだ。  それでも先生のデタラメを聞きながら飲むのなら、それは結構楽しいかもしれない。   僕は近々道場に酒を持って遊びに行く約束をして先生と別れた。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加