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「相沢さん」
三島さんは私より頭二つ分背が高い。
したがって私は見上げる形で三島さんを見た。
「バイト先でドーナツ頂いたんですけど、いかがですか?」
三島さんの手には、有名なドーナツ屋さんの紙袋。
「おいしそうですね。いただきます」
すぐにでも手をつけたいところだが、我慢して台所へコーヒーを沸かしに行く。
最新のシステムキッチンなんてお洒落なものではない質素な台所。
相変わらず時代に逆らい、コンロ。
IHもいいですが、料理するのも湯を沸かすのも火力が大事ですよ、ええ。
掃除するのは少し大変ですが。ええ。
「この間、駅のほうまで行ったので、久しぶりにコーヒー豆を買ったんです。それがまだあるので入れますね」
私は準備をしながら、茶の間にいる三島さんに話しかけた。
「ありがとうございます。…相沢さんもしかして、僕がドーナツをもらうのを予言してたんですか?」
「なわけないじゃないですか」
「あはは」
軽い冗談は三島さんの得意技。
私は手動のコーヒーミルで買っておいた豆を挽いた。
不思議と落ち着くコーヒー豆独特の香りが鼻をくすぐる。
本当は電動のミルのが楽なんだけど、自分で挽いたほうが美味しく感じるので電動を買えずにいる。手間は調味料のようなもの。
「あれ、相沢さん。コンビニで交換した絵皿どこでしたっけ」
いつの間にか近くにいた三島さん。
いつも気配が感じ取れない。幸が薄いとかそういうわけではないのだけれど。
彼はミルに入った豆の状態を私の後ろから覗き込んでいる。
「あそこの二段目の棚にありますよ。白いお皿の下」
「ああ。あそこか」
「三島さんがしまったじゃないですか」
「こりゃ完全に忘れていました」
「あ、三島さん、ドーナツについてるキッチンペーパーみたいなの捨てないでくださいね」
「はいはい」
言っておかないと彼は紙袋の中のキッチンペーパーみたいなものを捨ててしまう。
ドーナツ持つときに使うのになんで捨てちゃうんだろう。
お店のご好意を無にする男、三島さん。
「相沢さん!イチゴのやつとクリームのやつでいいですか?」
私の好みを完全網羅する男、三島さん。
「はい。もう少しでコーヒーできますんで、ちょっと待っていてください」
フィルターの中はコーヒードームが膨れている。
下ではポタポタとコーヒーの水滴がおちている。
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