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「僕に獲物の前でお預けをさせるなんて、相沢さんはとんだドSですね」 「とんだ言い方ですね。もう少しですよ。我慢、我慢」 フフと笑いながら茶の間の方でウズウズしている三島さんを宥める。 焦ったらコーヒーが美味しくなくなるから。 「三島さん、コーヒーカップ出してくれませんか?」 「わかりました。承りましょう」 出されたカップを見てやっぱりですかと心の中で呟く。 三島さんは棚にある洒落たコーヒーカップではなく、必ずと言っていいほどかわいらしい動物柄のマグカップを持ってやってくる。 片方はキリンがニコニコ顔で歩いているイラストのマグ。 もう片方はペンギンがヨタヨタ歩くイラストのマグ。 ここに三島さんと住むことになってホームセンターで二人で選んだもの。 『相沢さんはいつもペンギンみたいですよね』 そう言って彼が選んでくれたペンギンのマグは私専用。 『じゃあ三島さんはキリンみたいですね』 そう言って私が選んだキリンのマグは三島さん専用。 買ってからずっと使っている。 気に入ってというか、三島さんにカップを出すように頼むといつもこれを出してくるものだから手になじんでしまってつい使ってしまうのだ。 「お願いします」 台所のシンクに二つ並べられるマグ。 笑顔の三島さん。 ……三島さんはやっぱりキリンみたいだ。 優しそうな目尻と、何も欲を感じさせない笑顔。 少し上から見守っていてくれているような雰囲気。 「このマグ、三島さんにピッタリですね」 「そうですか?」 「はい。とってもお似合いです」 「嬉しいです。僕のお気に入りですから」 コポコポとコーヒーが入っていく音。 黒い液体をマグに注ぐ。 “お気に入り” 自分が選んだものをそう言って貰えて私はにやけるのを必死で堪える。 お返しと言わんばかりにペンギンのマグを手に取る。 「私もこのマグ、大好きです」 (…三島さんの次に) 爆弾発言は心の中に。 いつか言える日を思って。
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