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ホワイトデーの夜に
薫子が死んだあの日、彼女の冷たくなった手を握りしめたあの日、おれは全てを失った。
明日を生きる希望も、人を愛するぬくもりも、おれとは全くと言っていいほど無縁なものとなってしまった。
そんな、真っ暗な井戸の底を這いつくばるように生きていたおれに、もう一度光を当て、手を差し伸べてくれたのが千冬だった。
千冬は、おれの壊れて粉々になった心の欠片を、一つずつ拾い集め修復してくれた。ゆっくりと、丁寧に。
そのおかげで、再び明日を生きる希望が持てるようになった。人を愛するぬくもりを思い出すことができた。
そしておれたちはバレンタインデー、薫子の命日に結婚した。
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