僕とアナタと距離と壁

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「おっ、東雲。どした?立ち尽くして?」 「…あっ、お、お疲れ様です。先輩。」 一瞬誰に話し掛けられたのかすら判らない程、気が動転していた。 「さては、欲しいパン買い逃したか?」 「…えっ…あ…」 突然のことで頭が回らない。 「お~い、徹。何処行ってんだよ、いきなりいなくなんなよ。」 「そうだよ、探したんだからな。」 「ほら、早く教室帰ってご飯食べようよ。」 また一瞬にして友人たちが彼を取り囲み、口々に言いたいことを言う。 僕は空気になった。 「わりぃ、わりぃ。ちょっと待ってって。」 先輩が此方に向き直り買ったばかりのパンを差し出す。 唐突な行動に戸惑っていると 「だから、パン買いそびれたんだろ?今回大量収穫だったから、東雲にやるよ。」 「…えっ、あ、ありがとうございます。」 思わず受け取り頭まで下げてしまった。 「おい、おい。珍しく素直なのはいいけど、大袈裟だな。」 余りの普段との態度の違いに先輩も戸惑っているようだった。 「徹、その子だれ?」 さっきまで興味深そうに僕と先輩のやり取りを見ていた先輩の友人の一人が口を開いた。 「部活の後輩の東雲だよ。」 少し誇らしげに先輩が僕を紹介した。 「へぇ~この子が噂の唯一の部員君ね~」 「ふ~ん、可愛いね。」 今度は一瞬にして僕が取り囲まれた。 「…え、あ、あの…東雲沙樹です。宜しくお願いしますっ」 人だかりの中心になることは初めてで分けも判らず自己紹介していた。 その光景を見かねた先輩が助け舟を出してくれる。 「おい、東雲がビビってんだろ?ほら、散った、散った」 「失礼だな~別にビビらせてなんてないから。」 「いいよ、じゃあ先教室戻るからね~優しくて後輩想いの徹さん。」 皮肉を1つ言って友人たちは次々に去って行った。 それはまるで嵐のような一時だった。
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