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「ありがとよ、神女様。いんやぁ~、黒階僧の神女様にお祈りしてもらうとぉ、有り難みが違うべなぁ~」
御者はにこやかに答えた。
「へっへーん。普通だったら金とるぜー?…ところでおっちゃん、街まで後どんくらい?」
「もーすぐさね。ほれ、あすこの山に立派なお屋敷が見えんべよ」
御者の指差す先には、一面紅葉しきった山と、そこにそびえ立つ純白の豪邸があった。
「この辺一帯の領主様の家だべさ。やんさしぃ人でなぁ、おいら達町民のことをよぉく考えてくれてんのさぁ」
「ふーん……」
アリスは両手を受け皿にして自分の顎を支えながら、遠くからでも判るほど手入れの行き届いた屋敷を眺めていた。
領主の人柄は既に知っていた。
アリスは3日前、その領主本人に会っていたのだ。
ロンドンと名乗ったその男は下級貴族の生まれでありながら、その性格と政治手腕から王家の注目を浴びている。
そして、そういう人間ほど、敵が多い。
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