変わった食べ物。

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 遡ること1年前。ある科学者が夜眠り、朝起きると研究室の机に、あるオーロラ色とでも呼べそうな液体が置かれていた。誰が置いたのかと思い、監視カメラで見てみると何とその科学者が夜寝ている間に知らず知らずの間に無意識で作ってしまったらしい。  その液体を分析するととんでもないことが分かった。その液体に含まれている成分は、人類の毛を美味しくしてしまう液体らしいのだ。だが、個人差がかなりあるという。  1年経った今ではその液体は僅かながらも生産されることになった。だがまだまだ液体自体の希少価値が高く、かなりの高値で売られている。  俺は醤油ラーメンが来るまでの間、他の客が毛ラーメンを食べている様子を見てみた。  やはりとてつもなく旨いのだろう。毛ラーメンを食べている客達は皆、感動で涙を流したり、しゃくりあげたりしている。  その時、店員が醤油ラーメンを俺のテーブルに置いた。 「お客さん、変わっていますね。わざわざ行列に並んで醤油ラーメンを注文するなんて」  店員は営業スマイルも忘れ、どこか苦笑したような顔で言った。 「いや、今日は毛ラーメンを食べている人を直に見てみたかったんですよ。今度来たときは必ず毛ラーメンを注文します。それにしてもすごい光景ですね」  俺が言うと店員は、「そうですね。作っている側としては本当にやりがいを感じますね。こっちが貰い泣きするぐらいですからね」と笑って言った。 「ところで、この毛ラーメンは誰の毛なんですか?」  俺が聞くと店員は少し誇らしげな表情を浮かべた。 「このお店で使っている毛はね、埼玉に住むあの斉藤さんの鼻毛なんですよ」 「ああ、テレビでよく特集されている、あの埼玉の斉藤さんの毛なんですか」 「そうなんですよ。しかも斉藤さんの鼻毛を食べられるのはこのお店だけなんですよ」 「へえー。そうなんですか」 「ええ、このお店だけに斉藤さんは鼻毛を提供してくれているんです」 「それは、もったいないことをしたかな」  俺は少し、残念そうに言った。
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