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「でも、まだお店を出たわけじゃないので、今からでもご注文できますよ」
「え? 大丈夫なんですか?」
俺は店員の言葉を聞き、毛ラーメンを追加注文することにした。
ものの数分で俺のテーブルに毛ラーメンが置かれた。
ラーメンから立ち昇る湯気が俺の鼻腔を優しく撫でた。
その湯気は匂いとともに心の奥底にしまっていた俺の子供の頃の思い出も運んできてくれた。
小さな頃遊んだ公園の光景、夏休みに行ったお婆ちゃんの家、先生に恋をした甘酸っぱい思ひ出。
俺の目から涙が自然とあふれ出していた。
斉藤さんの鼻毛は束ねられて麺と一緒に練りこまれていた。黒い麺はイカ墨スパゲティーのようで違和感は特に感じなかった。
一口ラーメンを食べると、やはり衝撃の美味しさだった。一瞬にして俺は斉藤さんの鼻毛入りラーメンに心を魅了された。脳が快楽に支配され、ランナーズハイならぬラーメンハイに陥った。
これが斉藤さんの鼻毛の味か。他の人の鼻毛ではこうも深みのある味は出せまい。俺は一口一口を時を忘れて味わった。
半分ほど食べ終わった時、店員がやってきた。
「どうしたんですか?」
俺が聞くと店員が、「味を変えることも出来ますよ」と笑って言った。
味を変える? この究極の味を? はん! バカバカしい。
「こんなに美味しい味を変えるなんて信じられませんね」
俺が言うと、店員が小皿を俺の前にすっと差し出した。
「これは?」
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