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「那津さん。俺、那津さんのこと、知ってましたよ」
「はい?」
「月曜日の朝いつも同じ電車でした。その様子だと、まったく気付いてなかったんですね」
「え、ええ??」
「いつも電車乗ってくると、先頭車両の壁にへばり付いて本読んでますよね。
最近は、スマホで携帯小説っていうんですか?あれ読んでますよね」
「っ!!!」
確かにその通り。
私は朝の通勤電車のなかでは、ずっと何かしら読んでいる。
親が心配性というのもあって、一人暮らしをしていても日曜日は実家に戻っていることが多い。
だから、月曜日は大抵地元からの出社している。
電車のなかで何もせずに1時間ぼ~となんてしていられないし、ゲームをやるのは、周囲の目がはばかられるから、やはり読書に落ち着くのだけれど。
「マスクしてるのに、表情豊かで。本読んでても急に泣き出すんですよね」
「!!!!」
「この前なんか、涙でマスクが濡れちゃて。
どうするのかなぁと見ていたら バッグからもう一枚マスク取り出して、素知らぬふりして、ささっと付け替えるんですから。
ホント、笑い声堪えるのが大変でした」
「~~~~~~!!!」
もう、言葉もありません。
確かに、2週間ほど前。
”この小説家には泣かされるんだ!”と分かっていて、その人の新作を読んでいた。
あと十数ページで終わるから、家に帰るまで我慢できなくて。
案の定、読みだして数分で涙がボロボロ出てきて、口にマスクをした状態で、涙で濡れた目尻をハンカチでぬぐって。
まぁ汚い話だけど、涙が出ると、鼻水も出るわけで。
たかだか十数ページのおかげで、私の朝の化粧は台無しになった。
あの時は、ちゃんと予備に”数枚”マスクを用意していたので、あわてて取り替えたのを覚えている。
とはいえ、まさかあれを見られていたとは!!!!
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