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「どんな人なのかなって、ずっと思ってました」
恥ずかしさでいっぱいいっぱいの私の耳に、するり、と優しく入り込んで来る声。
「小説1冊に、嬉しそうだったり、楽しそうだったり、悲しそうだったり、寂しそうだったり。
いろんな表情をする那津さんが、どんな人だか、ずっと興味があったんです」
車のエンジン音にシンクロするみたいに、心音がどんどん速くなる。
「きっと心が豊かな人なんだろうなって」
そんなんじゃない。
”いつも誰かに必要とされていたい。”
そんな寂しい女なの。
「今日だって、俺、本当はナポレオンパイ、買うつもりじゃんかったんです」
「え?!」
「こっちに帰ってきたら、いつもは月曜にしか居ない那津さんが、すぐそこにいたんで、思わず声が出ちゃったんです」
「え?!だ、だって、"ナポレオンパイ有りますかって、店員さんに聞いてたじゃない?」
「それは。あそこで声が出ちゃったんで仕方なく。
そこにある商品の名前だしたら、買わなきゃいけないじゃないですか」
「~~~」
ホント、色々と私の気苦労を返せ?
「でも、言ってみて正解でした。
まさかこうして、那津さんと一緒にケーキが食べられて、名前教えてもらって、こんなに喋れるなんて、思ってもみなかったですから」
「私だってビックリだよ」
ふてくされた様に呟く。
表面的には、大人しい性格なのだ。
口を開けば、存外に口が悪いし、態度とかガサツだし。
だから結婚できないと母からも言われるけれど、そこは内弁慶というか、外面は良いほう。だと思ってます。ハイ。
それなのに、この人の前だと、うまくいかない。
今だって、家にいる時みたいな言葉遣いになってるし。
「俺ってツイてるんですよね~」
若き社長様は爽やかな笑みを浮かべて、そうのたもうた。
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