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「畏まりました。それでは25日納品いたします」
受話器を置いて、ふーっと満足な気持ち呼気を吐き出す。
「今日の藤澤君は、いつもより更にキビキビしてるね」
「保土ヶ谷部長、お疲れ様です!」
「うん、結構、結構。若い子はそうでないと」
「…、ありがとうございます」
31歳が若いかどうかは、置いておこう。
「それにしても、あちらは賑やかだねぇ」
「?」
必殺・前倒しが見ていた先は、経理や総務のいるブロックだ。
本来ならば、保土ヶ谷部長もそこに居る。
「今朝の朝礼で、異動の報告があったから…ですね」
今日は金曜日。
朝の全体朝礼で、"元彼"の本社への異動が正式に発表された。
営業部内では、既に引継ぎが始っていたが、人事はともかく、経理や一般総務からすれば、初耳だったのかもしれない。
その彼が、経理にいる。
営業が経理に行くのは、週の出金をまとめて精算するくらい。
…にしては、ちょっと長い。
経理のお姉様方も、必要以上にボディタッチが目立つ。
「まあ、これで藤澤君への風当たりも弱まるだろう」
「部長?」
「君が小田原君と付き合い出してから、更に酷くなったからね」
ーそうだったのかっ!!ー
今更の新事実に、私の目が丸くなる。
「君自体が特殊だったのもある。
社長が直々に面接をして気に入った、というのも、彼女たちからして見れば気に入らない要因の一つだろうし」
「え?」
確かに、転職の最終面接は社長だった。
でも、社長はちょくちょく本社から東京に来ているからで…。
「ここに居る社員で、直接社長の面接を通って居るのは、私と君くらいだよ」
「!?」
「藤澤君は、時折抜けているね。
ウチの会社は社員165人。その全員が社長面接をしていると思ったかね?」
「あ、えーと。営業の皆さんは、面接されているかと思っておりました」
だってだ。私が話した社長は、気さくで、お洒落で、まさにロマンスグレーな素敵なオジ様だったから。
そんな、レアな人だったのか?!
「君はね、鳴り物入りで入って来たんだよ。
”他所から凄い社員が入ってくる”ってね。
しかも一年も経たずに営業部を掌握して。
今では君が居ないと営業部は回らないね?」
「それは違います!!」
「謙遜はしなくて良い。
誰だって気付いているさ。
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