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* 「那津さん」 「え?」  食欲のないまま店を出ると、ポンと肩を叩かれた。 「大崎君!?」 「こんばんは。ホント、偶然が続きますね」 「・・・・・・」  言葉の出ない私に、大崎君が慌てて手を振る。 「違いますよ?本当に、偶然です。 ストーカーとかじゃないですから! そりゃ”背格好の似た女性がいるなぁ”と思って来たのは認めますけど」 「・・・・・」  大崎君を見上げる視界が滲んだかと思うと、ぼろり、と、涙がこぼれた。 「那津さん!?」  少しとはいえ、見知った顔に、張りつめていた心が折れてしまう。 「・・・・私、泣いて良い?」 「もう、泣いてますって」 「・・・ふえ・・・・・」  ここが駅のコンコースで、人通りも多いというのも、今は気にならない。  本当は、黒いコート姿の彼に、縋り付いてしまいたいのを、何とか堪えている状況で。 「泣いてもいいですよ」  まるで、そんな私の心を読んだかのように、そっと抱き寄せられた。 そして彼の手が頬に伸びて、指で涙を拭ってくれた。 「・・・・指じゃ拭いきれないな」  そう言って、コートの袖を摘まむ。 「・・・・・・・」 「・・・・那津さん?」  コートの袖で涙を拭いてくれようとするその思考を読み取って、思わず一歩後ずさってしまった私と、若干いらだったような彼の声。 「そうまでして、俺のコートを心配してくれるのは嬉しいんですけどね。 ・・・・ふぅ。 今度は安いコートを着てきます。 このままじゃ、いつまで経っても きちんと抱きしめられそうにない」 「~~~」  いろいろ、突っ込みどころが満載なのに、今はどれも口に出せそうになかった。  嗚咽を堪えるのに必死だったから・・・・。
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