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「那津さん」
「え?」
食欲のないまま店を出ると、ポンと肩を叩かれた。
「大崎君!?」
「こんばんは。ホント、偶然が続きますね」
「・・・・・・」
言葉の出ない私に、大崎君が慌てて手を振る。
「違いますよ?本当に、偶然です。
ストーカーとかじゃないですから!
そりゃ”背格好の似た女性がいるなぁ”と思って来たのは認めますけど」
「・・・・・」
大崎君を見上げる視界が滲んだかと思うと、ぼろり、と、涙がこぼれた。
「那津さん!?」
少しとはいえ、見知った顔に、張りつめていた心が折れてしまう。
「・・・・私、泣いて良い?」
「もう、泣いてますって」
「・・・ふえ・・・・・」
ここが駅のコンコースで、人通りも多いというのも、今は気にならない。
本当は、黒いコート姿の彼に、縋り付いてしまいたいのを、何とか堪えている状況で。
「泣いてもいいですよ」
まるで、そんな私の心を読んだかのように、そっと抱き寄せられた。
そして彼の手が頬に伸びて、指で涙を拭ってくれた。
「・・・・指じゃ拭いきれないな」
そう言って、コートの袖を摘まむ。
「・・・・・・・」
「・・・・那津さん?」
コートの袖で涙を拭いてくれようとするその思考を読み取って、思わず一歩後ずさってしまった私と、若干いらだったような彼の声。
「そうまでして、俺のコートを心配してくれるのは嬉しいんですけどね。
・・・・ふぅ。
今度は安いコートを着てきます。
このままじゃ、いつまで経っても きちんと抱きしめられそうにない」
「~~~」
いろいろ、突っ込みどころが満載なのに、今はどれも口に出せそうになかった。
嗚咽を堪えるのに必死だったから・・・・。
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