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結局、さっきまでいた喫茶店に戻ってきてしまった。
レジの女の子にも不思議な顔をされてしまった。
「それで泣いてたんですか」
「う、……ごめんなさい」
社内の事なのに、全部話してしまった。
経理から仕事を押し付けられている事、その理由が転職のときからと、元彼の二つにあった事。
自分で解決できなくて、結局他人を巻き込んでしまったこと。
「なんで"ごめんなさい"なんですか?
「すごく、くだらない話だっだしょう。
全部、私が上手く立ち回れなかったからなのに・・・・。
愚痴まで聞かせちゃって、本当に ごめんなさい」
目の前のミルクティーが冷えて行く。
折角大崎君が買ってくれたのに。
「俺は嬉しかったですよ」
「え?」
「昨日も言いましたけど。
俺は那津さんが、どんな本を読んで、感動して、泣いて、怒って、喜んでるか知りたいと思った。
今回は本じゃないけど、那津さんの心が、どんなことに震えるか垣間見ることができましたから」
優しい、優しい声。
「それに、くだらなくないでしょう?
那津さんからしてみれば、人ひとりの人生を、左右してしまったかもしれないと気にするのは自然なことだし。
今回の件で、社内での那津さんの立場が悪くなってしまっているかもしれないと、悩んでも無理ないことです。
それに」
不自然に言葉を切られて、反射的に隣にある顔を仰ぎ見る。
「それに、なあに?」
にやり、と、唇が意地の悪い笑みを象った。
「これは、俺の個人的な良かった点ですが」
「なぁに??」
勿体ぶって、内緒話をするみたいな仕草に、反射的に耳を傾けてしまう。
「那津さんがフリーで、俺に心を開いてくれてるって、分かりましたから」
「っ!?」
耳許で落とされた囁きの効果は絶大で、声音の色気と内容に、頬が赤くなる。
「相談してくれるって、多少なりとも相手に気を許したって事ですよね。
だから俺としては、そこが一番嬉しいです。
那津さんが泣きたい時に、偶然でもこうして会うことができて良かった」
「そのセリフ、私に都合よすぎるよ」
泣き笑いみたいな顔をしていると思う。
本当に、錯覚してしまいそうなくらい、彼が優しいから。
ーもしかして、本当に?ー
会社を出る時と同じ問い。
たった数時間で、その内容はガラリと違ってしまった。
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