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「ね、ねぇ大崎君。これはどこで印刷してるの?」
明らかな話題転換。
晴れ晴れしい笑みを見せてくれた彼は、その話に乗ってくれた。
「それは、ネットかな。あとは、近くのオンデマンド出力とか」
「部数、どれくらい作る?」
「もしかして、安く出来たりする?」
「提案は出来ると思う。
オンデマンドだと即金だったりするでしょ?ウチの会社なら、掛け売り出来ると思うけど」
業績によっては前払いってこともあるけど。
「助かります!」
私もパソコンを一台借りて、見積を始める。
頭の中に叩き込んだ単価で、最低限の粗利をつける。
会社案内、封筒各種、名刺、ロゴ入りクリアファイル、etc。
「楽しそうですね」
隣で資料を読んでいた大崎君が苦笑する。
「仕事中毒なの」
バッグの中には可愛いハート形のメジャーと、実用性にとんだ電卓が入っている。
荷物になるからいつも置いてこようと思うのに、何故か入っている。
さっきも寸法を測り出して、早速笑われた。
「会社案内とか名刺とか、デザインどうしたの?」
「知り合いがデザイナーやってて、安く頼めたんです」
「じゃあ、データもちゃんと作ってあるっと。
それだと、こんな感じかな?」
自分個人のクラウドに自社の見積フォーマットが入っているのは、やはりどうなのか。
ネットから呼び出して、入力して、まずは画面を見せた。
「ちゃんとした見積ですね」
「本職ですから」
「今までの経費と比べたいから、そのデータもらって良いですか?」
「もちろん。PDFで良い?
ちゃんと比べてくれると嬉しいわ。
なにかあれば言ってね。ちょっとだったら、合わせられるから」
一度席を譲ってほしいと言われて席を立つと、その間に手早く社内ランに保存したらしい。
「あ、もうこんな時間か!」
一息ついた私達の視線が、時計に伸びた。
一時半を過ぎている。
「メシ、食いに行きましょうか」
「うん」
そう言って例のエレベーターに乗り込み、やはり私は小さくなって笑われた。
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