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事務所から5分と離れていない距離に、小さな喫茶店があった。
「社長さんが女の人連れてきた!」
お冷とおしぼりを持ってきてくれた小柄な女性が、びっくりした声をあげる。
「八尋さん、メニュー下さい」
「あ、ごめん。ごめん。
社長さん、いつも同じだから持ってこなかった!
ちょっと待ってて」
八尋さん、と呼ばれたその人は,パタパタとエプロンを翻し、メニューを取りに行く。
「よく来てるの?」
「近いし、コストパフォーマンスも良いから。昼が取れるときはほとんど」
「更に、味が美味しいからって、紹介して欲しいな!」
戻っていたウエイトレスさんが、胸を張って立っていた。
なんだか小さな女の子みたいで微笑ましい。
たぶん、私より年上なんだけど、どうしても可愛い印象を受ける。
「内装もだけど、メニュー表も可愛い!」
「そうでしょ、そうでしょう??
味も美味しいんだよ!」
「……八尋さん、那津さんがメニュー決めるまでそこにいるつもりですか?」
「もちろん!なんでも聞いてね!」
お客様はちらほらいるけれど、みんな常連客らしい。
八尋さんのばっさりした声にも、みんな驚かない。
「えっと、本日のパスタはなんですか?」
「小海老とトマトのクリームパスタだよ。
50円プラスしてサラダもつけられるし、さらにプラス100円の、よくばりさんランチだと、サラダとドリンクと、デザートに杏仁豆腐がつくよ!」
ー杏仁豆腐が、"あんにゃんどうふ"って聞こえたんですけどー
明らかにそう聞こえたはずなのに、しれっとしている大崎君との対比がおかしくて、笑いそうになる。
「八尋。そんなランチ聞いた事ないよ」
店の奥から長身の男性がやって来た。
「いらっしゃいませ。
うちのがお騒がせをしております」
大崎君とは違った、渋めのイケメンさんだ。
その人が、ひょいと八尋さんの首根っこを掴んだ。
「お前がいたららゆっくり決められないだろうが」
「みゃ~!!」
やはり、猫扱いらしい。
それはそれで微笑ましいのだけど。
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