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「大船さん。俺のは いつもの大盛りをお願いします」
「かしこまりました。そちらのお嬢さんは、ゆっくり決めて構いませんよ」
「いえ。
本日のパスタを、よくばりさんランチでお願いします!」
「わ~い、欲張りさんだ~」
「八尋が一番欲張りだけどな。ほら、サラダの用意をしておいで」
大船さんと呼ばれた店長さんらしき人が手を放すと、八尋さんはパタパタと猫のように逃げて行った。
「飲み物はどうされますか?」
「食後にコーヒーをお願いします」
「かしこまりました」
ストイックそうな、真っ白なコックコート姿に、低い声も決まっている。
「………那津さん、大船さんみたいな人、好みなんですか?」
隣から いじけたような声。
「自分に対してストイックで、他人に対して包容力のある男性は素敵に見えるものよね?」
先程あんなことをしておいて、と、軽く眼差しで嗜める。
「自他ともに甘いですよ、俺は」
「そうだね~。
うまいこと、甘えてくれて、甘やかしてくれそうなタイプだね~。
はい、サラダお待ち!」
お蕎麦屋さん?と聞きたくなるような、掛け声と共に、ことんとサラダボールが置かれた。
「八尋さん特製のミモザサラダ!」
「美味しそう!いただきます」
ちゃんと手を合わせて"いただきます"をすると、大崎君と八尋さんが頷いた。
「?な、なぁに、二人とも」
「うんにゃ。いただきますが言える子は、いい子だよって話」
「そうですね。那津さんは、仕草が丁寧ですね」
そんなことを言われたのは初めてだ。
「えっと、凄いハードル上がってるんですけど。
わたし、かなりガサツですよ?」
「ん~。見る限り、ちゃんとしたお嬢さんって感じだよ?」
「わ、私、童顔なんでしょうか?
あの、三十路入ってるんですけど…」
おずおずと自己申告してみる。
少し怖くて、隣の大崎君の顔が見れない。
「何言ってるんですか那津さん。
八尋さんなんか、四十路で……
ストップ!八尋さん、お盆は人を殴る道具じゃないですっ、しかも角とか!
大船さん!八尋さんが暴れ出しました!」
「うそっ!見えない!こんなに可愛らしいのに!!」
「お!那津ちゃん、わかってる~!
それに比べて、この社長さんはっ!!」
私には笑顔を向けたまま、大崎君を打つ手は止めない八尋さん。
ちょっとした修羅場だ。
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