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「八尋。それ以上騒ぐと、強制退去させるよ」
そこに現れた大船さんの一言で、八尋さんがピタリと止まった。
まるで ゼンマイで動くオモチャみたいな人だ。
「ごめんなさい」
「うるさくした罰として、ここにいる全員にデザートを用意して。
もちろん、費用は八尋持ちで」
「うげっ。諒さん、諒さん!
女性の年齢を口にした社長さんは?お咎めないの!?」
「お咎めって…。既にトレイで叩いてただろうが」
「それは条件反射」
口を尖らせた八尋さんは、どう見たって三十代にも見えなかった。
「良いもん。お支払いの時、お嬢さんの分も上乗せしてやる」
「それ、俺得です。ここに誘った段階で、俺が払う気でいたんで」
「むーきー!!
社長さんのデザート、ミントの代わりにパクチーのせてやる!」
そう言って、またパタパタと行ってしまった。
ー パクチー苦手な人多いけど、飾りとしてなら取ってしまえば、そんなに害はないけどなぁ~ー
マイペースな八尋さんに引きずられたのか、思考が明後日の方向を向いている。
「お騒がせしました。あとで叱っておきます。
本日のパスタになります」
八尋さんが賑やかな分、大船さんはとても静かに話す。
白いボール状のお皿に綺麗によそられたパスタ。
ミモザサラダは可愛らしい盛り方だったが、今度のは明らかに別人のそれだとわかる。
真っ白なパスタボウルの中は、先取りした春のようだった。
優しい色のトマトクリームに、ピンクと白の小海老と、春を呼び込む菜の花。
「で。大崎君のは、一体………」
「なんですか?」
洋食盛合せと言うか。
何処ぞのメガ盛り?
「メガサイズの盛り合わせですね」
自分で言っちゃったよ。
「この人の胃袋底なしでね。
いちいちお皿分けてたらテーブルに乗り切らないから、自分の美意識が損なわれない程度に盛ってるんです」
大船さんも困り顔でプレート皿を置いた。
『いつもの大盛りをお願いします』
オーダーの際のやり取りを思い出す。
言ってた通りの、それ以上の大盛り。
洋食ってそうじゃなくてもカロリー高いのに。
こんなに食べなら一食で二日分くらいのカロリーになりそう。
胡乱な眼差しを隣に向ける。
「大崎君。君の将来が見えた気がする」
「なんですか、唐突に」
こんなにかっこいいのに、将来メタボだなんて!
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