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「その守衛の方は、何か勘違いをされて居る様ですね。 確かに わたくしは女です。 ですが大崎社長に連れ込まれた覚えは有りません」 声が凛と聞こえる様に、とびきり出来る女に見えるように。 いっそ縁然と微笑む。 「初めまして。 わたくし西日本綜合印刷株式会社 東京支部 副支部長を勤めております 藤澤と申します。 本日は、茅ヶ崎様から紹介していただき、営業に参りました」 バッグから取り出したのは、箔押し加工を使った豪華な名刺。 それを大崎君が褒めてくれた様に、両手で持って差し出す。 そこにはちゃんと名乗った通りの役職と名前が書いてある。 「聞いたことがない会社だが?」 「本社は九州にございます」 大概の人間はこの一言で納得する。 そもそも一般の人が知る印刷会社なんて有名な大手二社。 知っててもう三社。 そしてこの人に必要なのは我が社のネームバリューじゃない。 「茅ヶ崎というと、商社の あの茅ヶ崎か?」 「はい。茅ヶ崎社長には いつもお世話になっております」 ある程度のレベルの人間になれば、関東茅ヶ崎の名前が通じる。 そこそこ大手の会社と取引があるとすれば取引会社の箔がつく。 この人が何処までの地位があるか知らない。 だけど我が悪友の父君である商社社長様と直接知り合いでも、騙し通せる自信がある。 伊達に 長いこと悪友やってない。 ーおじさん、先日の麻雀大会のボロ負け分、ここでチャラにしてあげる!ー 心の中の開き直りを誰に聞かせるわけでも無く、緩やかな笑みを貫く。 これでもそれ程デタラメな嘘は付いてない。 実を言えば、先程 見積に使わせてもらったパソコンに、茅ヶ崎商事の宛ての請求書のフォルダが見えた。 勿論、データは開いてないし、大崎君に確認している暇はなかったけど、この会社は茅ヶ崎との取引がある。 それならばこの嘘はつき通せる。 …大崎君の協力があれば。 「お前、茅ヶ崎と付き合いがあったのか?」 「はい。先日商品を納めさせていただきました」 「そうか。 しかし、本来今日は休みなはずだが?」 『乗った!』 思わず心の中でガッツポーズ。 ここまで来れば、どうにかなる。 どうとでもしてみせる。
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