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「申し訳ございません。
…実はわたくしの都合で、お休みのところとは伺っていたのですが、本日お邪魔をさせていただきました。
本来のお約束は昨日のはずだったのですが、急遽 鳳凰堂の仕事が入ってしまい…。
折角のお約束を台無しにしてしまい恐縮しておりましたところ、大崎社長が本日にと、予定を変更してくださったんです」
演技過剰気味に悄然とし、更には、なんて素晴らしい社長様でしょう!とばかりに持ち上げる。
この時ばかりは、それが真実だと自分で信じ込む。
鳳凰の仕事が急遽舞い込んだのも嘘じゃない。
ーそれはちゃんとウチの営業マンが入稿してるはずですよ。
チェックが厳しくて大変だと嘆きながらね!ー
「しかし、」
まだ言うか。
「何をご覧になったのかは存じませんが…。
ぁぁ、もしかしたら!
わたくし此方着いた事を連絡してビルに入れて頂く際に、コンタクトレンズが外れてしまったんです。
わたくし極度の乱視で、コンタクトがないと、立っているのも容易ではなくて…。
それで手を引いてもらったんです。
そのあとエレベーターに乗った際に、大崎社長が 私の襟元に着いているコンタクトレンズを見つけてくださったんです。
もしかしたら守衛の方はその時の様子をご覧になって勘違いされたのかもしれませんね!
ほんとにお恥ずかしい…」
口許に手を置いて恥じ入る振り。
御覧なさい。
私の姿は、デートの時の女性の格好か?
違うでしょう?
明らかに仕事用のスーツでしょう?
地味過ぎる茶色のロングスカートのスーツが役に立つとは。朝の自分を褒めて上げたい。
さぁ、そろそろでしょう?
「ぁ、わたくし一人でペラペラと……。
見積も出させていただきましたし、取引条件も確認させていただきました。
何かご不明な点がございましたら御連絡下さい。
"連絡先は御見積書に書いてございます"。
本日はお時間をいただき、ありがとうございました」
どこぞの百貨店店員のように、綺麗なお辞儀を披露する。
「いえ。こちらこそ、休みの日に関わらずご対応いただき、ありがとうございます。
今回の"見積の件"、前向きに検討させていただきます」
私たちだけが分かる符合を入れているが、この会話の真意までは彼のお兄さんは気づかない。
"連絡先は御見積書に"
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