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私の連絡先は先程保存した見積書に記載されている。
会社の連絡先と一緒に私用、といっても仕事用兼の携帯電話の番号。
それを彼も強調したとなれば、この合図には気づいている。
「それでは失礼致します」
「下までお送りしますよ」
「大丈夫です。
あ、それとも下に降りるにもセキュリティカードは必要ですか?」
「いいえ、大丈夫です。
ではお言葉に甘えてこちらで失礼致します」
「失礼致します」
見られている事を意識して背筋を伸ばして歩く。
ロングスカートの裾が綺麗に見える様に。
数分前に乗ったエレベーターに再び乗り込む。
『下の守衛が…』
守衛に見られたとするならば、入り口とエレベーター。
手を引いていた理由も、顔が近かった理由もフォローはできたはず。
「あの手の人間は、女=仕事が出来ない、とか、煩いとしか思ってないのよね~」
ぼつり、と毒を吐く。
だからその通りにしてやった。
押し付けがましく、喧しい女。
だけど立場は高いとなれば、相手は扱いに困る。
「あとウチの社長に感謝しないとね~」
社長の意向で私は二種類の名刺を持っている。
一つは役職無しの営業事務。
一つは東京支部 副支部長 兼 営業部長代理。
前者はクライアントに威圧感を与えないため。
後者は問題があった際に、私が前に出て行くことを前提に。
経理が嫌がるのも分かる。
ヒラの顔して少ないとはいえ役職手当てついてるし。
ーだから文句も言わすわ働いてたんだけどね~ー
私が副支部長で営業部代であることを知っているのは保土ヶ谷支部長だけ。
社長面接の効果半端ない。
あとは
「潤美さんにお願いしないと」
彼の事務所が見えなくなるまで待ってから通話ボタンを押した。
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