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「はぁ~、色気がない」  店員さんに気づかれないように、小さく溜息。  どんなに可愛いチョコレートのパッケージにも心が惹かれない。  ここで買うくらいなら、スーパーに戻って、カカオ99%のチョコレートでも買いたい気分。  ミルクなんて入れないで。  真っ黒に塗りつぶして。  口いっぱい、苦くて構わないから…。  そうは言っても、考えただけで、口の中が苦くなってきた…。  ふと見ると、特別売場の後ろに、同じ洋菓子屋さんのショーケースが並んでいた。  いちごフェアーの文字も、バレンタインに隠れてしまっているけれど。  やはりバレンタイン本番だけあって世間は ケーキよりはチョコレートなのか、いつもより沢山残っているケーキたち。  そこで一番目を引く  ナポレオンパイ。  ほかのケーキが300円台なのに、さすが皇帝様だけあって、一人(?)だけ600円台をキープしている。 「いらっしゃいませ~」  ”どうせ今日のメインは特設でしょう?”と、少し気の抜けた店員さんの声。 ”誰も買ってくれないんでしょう?”と、諦めた感じ。  キラキラ輝くイチゴたちに罪はないのに。 売れ残ったケーキたちが、まるで私みたい。  どんなに頑張っても、一時誰かの目を楽しませても、買ってもらえない。 「…ナポレオンパイを、二つ、下さい」  気が付けば、そう注文していた。  本当は、一つ買えば十分なのに、”1つ下さい”とは言えなくて。  見栄を張ってしまた自分を呪う。  月の半ばで1300円の出費は痛いのに。 「お客様、こちらで宜しいですか?」  確認の為、箱に入れたケーキを見せてくれる。 いや、とは言えない。 頷こうとした、その時。 「あっ!」 「あ?」  いつの間にか、私の脇に、黒いロングコート姿の男性が立っていた。
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