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「・・・・紅茶です。どうぞ」
「どうも」
それでどうなったかというと。
私の車に乗って、駐車場でケーキを食べている。
「おしぼりも、紙コップも、フォークも揃ってるんですね」
「・・・はぁ、仕事柄、沢山もらうもので」
もとは九州に本社を置く印刷会社。
上司の一人が飲食関係の仕事受けきて、最初は”名入れ紙おしぼり”とか”印刷”らしい仕事をしていたのだが、最近ではただの紙おしぼりから、紙ナプキン。
果てはラップやらストロー、中華鍋、冷蔵庫までも商品に名を連ねている。
もとより専門的にやっているわけではないから、飲食店からオーダーを受けて、それに合った協力会社を見つけて、取引開始させて、発注して、品物を出荷してもらう。
都内に5店舗ある現場から、それぞれ五月雨のようオーダーがやってくる。
そんな仕事は内勤ではないとできないから、担当は上司でも、実際に動かしているのは営業事務の私。
協力会社さんからは、新しい商品が出るたびに、チラシやらサンプルをもらう。
だから私の手元には紙おしぼり だの、紙コップが、使いきれないほどある。
最初は上司に相談してたけれど、「どうせゴミになるばかりなら、持って帰れば?」との言葉に甘えてしまっている。
それが至るところにあるのは、まぁ、いろいろとあると便利だから。
「それにしても、びっくりしました」
「スミマセン」
「いいえ。悪い意味じゃないですよ」
いかにも好青年が笑う。
車の暖房以外の何かが、私の頬を熱くさせる。
それは10数分前のこと。
「あたたかい紅茶もあります!」
「え?え??」
商業施設の閉店は夜10時。
閉館時間まであと5分ともあり、警備員さんが片づけを開始していた。
自分でも何を必死になっているんだろうと思ったが、こうなったら止まらない。
「でも、ここ閉まっちゃいますよ?」
「・・・あ。そうですよね」
だから警備員さんが入口のドアを閉め始めているのだし。
「さすがに、ケーキと紅茶を持って、喫茶店に入るわけにもいかないですよね」
「おっしゃる通りです」
「公園、は寒いし。どっかゆっくり食べられる場所無いかな?」
「・・・・・・」
私は思わず男性の顔を仰視してしまった。
(仰視で間違ってない。だって相手は頭1こ分以上背が高かったから)
「どうしました?」
「・・・・あの、おかしくないですか?」
「はい?」
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