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「騙し討ち(フェイント)が、モットーなんですよ。」
瞬間、俺は右手に全筋力を総動員させ、地面を下へ垂直に押し込む。
無論、地面は決してその程度で浮き沈みしたりはしない。
ならばそこには、純然たる反動力だけが残る。
そうなれば、俺の体は浮き上がるのが道理であるが、現実問題そうはならない。
片側にだけ力を受けた物体は、“軸を中心に回転する”のが必然。
現在、俺の軸は左足に設定されている。
と、なればだ。
俺の体は土下座の形から、左足を主軸に上半身が宙へ持ち上がりつつ、更に右に片寄った力により右半身が右向きに回転する。
するとどうだろう。
あれだけ醜い土下座姿から、ここに今、即席的に“右後ろ回し蹴り”が完成された。
「ッ!?」
ルール上、あの体勢のまま足の裾を引っ張るだけでも俺の勝ちではあったが、それでは俺の気が収まらない!
俺を侮り、こんな恥辱的な格好まで晒させた罪、今ここで全て清算しやがれ!
卑怯だなんて言わせねぇぞ?
“先にルールを破ったのはそっちじゃねぇか”!
年長?先輩?関係あるかよ!!
狙うは後頭部。
お望み通り“一撃で”沈めてやる!
相手は前屈みのまま。
その姿勢では避けるのは愚か、ガードすら追いつかないだろう。
「なっ……」
そして俺の右足は、吸い込まれるように彼の後頭部に軌跡を描き……
ドガァ!!!!
入った!
「…………んだこりゃぁあよぉぉお?」
……………………。
………………。
…………。
ここで、孝の犯した“失態”について、言い訳をさせて欲しい。
この時の孝は“病み上がりだった”。
孝の会得している『鬼心流』とは、彼の言うとおり“騙し討ち”に重きを置く武術である。
誠意、礼節、罪悪感。
それら一切をかなぐり捨て、相手の意表を突き、期待を裏切り、欺き続ける武術。
勝ちのみを追い求め、過程を軽視した悪鬼の御技。
だが、そんな武術を会得しようものなら、当然のことながらその者は“人を芯から信じる事が出来なくなる”
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