第5章 世界はあまりに■■過ぎる

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「なぁ、質問に答えろよ転校生ィ……?俺に向けられたこれは……この脚は、いったい何だ?」 明らかに、拓斗は今までの比にならない程に激昂していたが、そんなことよりも、孝の意識は自身の足先に注意が向けていた。 孝は自身の認識のズレに気づいた。 振り抜けないのではなく、“抜けない”のだ。 よく見ると、孝の蹴りの当たった部位が、拓斗の身を守った土の壁に“徐々に沈んでいっている”。 「これで……、この程度で……、俺の『土轟王儡(シャーリプトラ)』の防護結界を崩せるだなんて……まさか本気で思っていたわけじゃねぇよなァ!!!」 咆吼。 ありったけの憎悪を込めて、拓斗は孝に怒号する。 「人おちょくんのも大概にしやがれゴラァァ!!」 既に抵抗虚しく完全に土の壁に沈みきった孝の足が、今度は緩やかに締め上がっていくのを感じる。 「ッ!『青生生魂(ヒヒイロカネ)』……爆散!!!」 ザパァァ! このままでは捻り潰されると察した孝は、捕われている部位から『想定(assumption)』と『構想(framework)』の過程をすっ飛ばし、デタラメに鉄屑を『生産(production)』し『構築(construction)』し続ける。 容量に耐え切れなくなった孝のスネは、さながらゴム風船のように膨らみ、爆ぜた。 ガラクタを詰め合わせただけのあまりに拙い爆弾であったが、拓斗の異能であろう土の塊から脱するには申し分無かった。 「ッギ……ィ……ガァッ……!!」 孝のスネからは、爆破の勢いで肉がこぞって千切れ飛び、陽の下に露出した骨が白い輝きを怪しく放つ。 当の本人は痛みこそ耐えてはいるが、別段気に等していない。 裏手首内部から刃渡り12cm程度のナイフを展開。 最早、骨が足型の靴下を履いているかのような右足を、勢い良く地につけ踏み込みの軸とする。 孝は手首から突き出たナイフを、そのまま掌打の型で拓斗へと打ち込む。 「くでぇんだよ。」 孝の足掻きに拓斗は冷めた一声をかけ、自身の中指と人差し指を、親指で軽く弾く。 「逆流(ギャクル)。」 途端に、孝から拓斗が遠ざかる。 「あっ?」 否、遠ざかっているのは拓斗ではない。 遠ざかるのは“孝の立ち位置”である。 拓斗の足元から、地面がベルトコンベアの要領で回転しているのだ。 そのあまりの回転速度に、孝はバランスを崩し、俯せに転倒する。
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