第5章 世界はあまりに■■過ぎる

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拓斗は手刀で、縦に空を斬る。 (ッ!来る……!) ドガァァアア!!! 拓斗の動きに合わせ、拳を開いた巨大な右腕が、手刀の形で孝に向かって倒れこむ。 それを孝は右に跳び、躱す。 「ケホ、ッチ!視界が……。」 衝撃で巻き上がった土煙が、孝の視認を阻害。 「さっさと構えろォ!次行くぞォゴラァ!!」 怒鳴り声と共にその障害を寄せ晴らしたのは、正面から迫り来る左手の巨拳。 「のわっと!」 既(スンデ)のところで判断が追いつき、屈んで巨拳の拳圧を浴びる。 「……っんヤロォ!」 生成、刀。 脱走した夜と同じく、左肩から柄を出し、背部を裂いて展開。 抜刀と共に、上部へ向けて弧を描くように切っ先を振るう。 「斬っ!!」 ザバァ! 拳の動脈にあたる部位を斬り、血の代わりに土砂が飛び散る。 わざわざ一番細い部位である手首に振るった甲斐があって、拳は見事に切断され地面に落ち、元の土くれへと戻った。 「でも……、終わりじゃねぇよな、これ……。」 孝の予想は正かった。 残された腕部の切断面から、土塊が物凄い勢いで盛り上がり、巨手が生え変わる。 まるで何事も無かったかのように、生え変わった手は雄々しくその豪腕を誇示していた。 「ふむ…………取敢えず一つ。」 「よそ見してんじゃねぇよクズ!!」 再生するその過程を黙って観察していた孝へ、もう一方の腕が横合いから拳を突き立てる。 躱す。今度は真上に跳ね、巨拳の上へと飛び乗る。 「高位!獲った!」 「だから何だ?土は踏む物だろアホかテメェ。」 そんなことも知らないのかと、相手を小馬鹿にするように拓斗は諭す。 途端、あれ程まで豪腕、剛拳であったはずの土塊が軟化し、孝の足を捕捉する。 「な!?(これは!最初の蹴りと同じ……)」 「地獄剣山・罪削ぎ(ツミソギ)。」 足を封じられ身動きがとれなくなったところへ、拳の形が変質し、それは針の山と化した。 孝の躰に、冥府の王の刑罰が襲い来る。
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