第0章 患者NO.3350

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「………現状は理解した。つまり、脱走者の足取りは未だ掴めてないと?」 「はい。全くもってそのとおりです。」 「どいつもこいつも………!」 天海 芹香は、片手で髪を掻き乱し、苛立ちを隠せずにいる。 「…片付くものから片付けよう。 まず『要因1』と『要因2』について」 「“手錠"のかけ違い…ですか。」 「いつか起こると思ってはいたが……。むしろ良く今までやってのけていたと感心する。」 「…あまりスマートな方法ではありませんから。」 そう、“手錠"。 陽皐病院の患者達は皆、“手錠"を付けることを強要されている。 だが、この゙手錠゙には、輪と輪を繋ぐ鎖がない。 そもそも手を拘束するための道具ではないのだ。 NEVLO患者のそれぞれが持つ“異能"を縛る為のものである。 この拘束具を作れるのは、世界で天海 芹香ただ一人。 それが、天海 芹香がNEVLO発症者で在るのに関わらず、院長の座についている最大の理由の一つだ。 「私の異能、『強制退化(ミッシング・リンク)』…。“対象の性質を詳細に理解していれば、最大で原初の姿まで退化させることができる"能力。」 「NEVLO専門研究機関」陽皐病院の目的。 それは、天海 芹香の“異能"を使い、患者を元の体まで“退化"させるワクチンの製作である。 しかし、病気の根本的な原因が未だ不明である為、現段階では“抑制"が限度である。 現状でも十分ワクチンを作れるのではないか、という声もあるが、できない理由が二つある。 一つ、NEVLO発症者は皆、体内環境適応能力に長けており、 ワクチンで抑えてもすぐに効果が切れてしまう。 二つ、同じ理由で回数を重ねるごとにワクチンが効かなくなってしまう。 この事は、患者を使った実験で既に証明済みだ。 なので、根本から一気に潰すワクチンでなければ、製作しても無駄なのだ。 それどころか、最悪もうこの病気を治すことは叶わなくなってしまうかも知れない。 その場合は、被験体に使われた患者は、本当に気の毒なことだ。 だが、その尊い犠牲によって、外部から抑制し続ければ、抑えることは可能ということもわかった。 外部からの抑制、 つまり“手錠"だ。
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