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 朝・8時30分。 “新谷~、新谷です”  一本の電車がホームに滑り込んできて、開いたドアからどっと人が溢れ出てきた。 (……来る)  守行(もりゆき)は瞬時に身構える。  ドキン、ドキン  数人が、守行のいるキヨスクへやって来た。 「いらっしゃいませ」  内心の緊張とは裏腹に、声を冷静に出すことは、もう慣れたといっていい。 「これね」  一人目の客が新聞をカウンターに置いた。 「140円になります」 「お兄さんマイセンちょうだい」  最初の客との金銭授受が終わらないうちに、横から一人が声をあげた。 「300円です」  一人目との金銭授受を行いながら、片方の手で頭の上にある棚から、二人目の商品を出す。 「150円になります」  無言で商品を出してきた三人目をクリアし、少し下げていた視線を上にやると、 「おはよう」  次の客が目の前に立っていた。  ドキンッ  いくら冷静に努めようとしても、それでもある程度の身体の強張りは、克服することが出来ない。 「これといつものやつお願いします」 「はい……」
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