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「どうかしましたか?」
頭を上げる。
クルウさんは手を顎にあてがい悩んでいた。
はっきりとは聞き取れなかったけれど、今なんか誰かに頼まれた的な雰囲気の言葉を聞いたような気がしたのは、僕の聞き間違いだったろうか。
「あ、いや、なんでもないよ。ちょっと決めかねてね。心情的には賛成したいところなんだけどね、ほら、わずかながらだが私も君より年功のある身だ。軽はずみに後輩の無鉄砲を了承するわけにはいかないのさ」
と、悩んでいた割にはすらすらと、滑るように口を開く。
なんだろうなあ。
中身がないのか、誤魔化しているのか、まるで本心を語っていないような。
魔女グレアリアとの過去話にしてもそうだが、自分に有利にしかならない結末にしてもそう。僕たちは図書館の存続、進退を懸けた、しかも僕のせいで起きてしまった一大事と思って全霊を賭していたってのに。
彼女は平気で『嘘』をつく。
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