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それにしても、この日記はあまり楽しげでないものが多い。日記というよりは、孤独や悲しみを埋めるための一つの手段だったようだ。もしかすると、これは日記ではなくて、そういう悲しみを綴った捌け口であったのかもしれない。
『〇月×日
あの人に会いたい。
あの人の声が聞きたい。
〇月×日
あの人が亡くなったと、人伝に聞いた。
それでも私は生き続ける。
〇月×日
誰かに触れたいと思うけれど、どうせいなくなってしまうのならと考えてしまう。
心は形を失っていく。
〇月×日
子供に戻りたい。
何も知らない無垢な子供に。』
もしあの幽霊が、その悲しみの言葉から生まれてきた、深く沈んで死に絶えた感情の澱(オリ)が、凝り固まってできた想いの結晶だとしたら──彼女を構成しているものはなんだろうか。
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