死番虫トロイメライ

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「ひっく……、ぐすっ……、ふええええ、ずびびびっ」  最後のは鼻水をすすった音。  テテさんは泣いていた。  部屋の角でうずくまって。  猫耳がない。霊体というのがどんな構造なのか、寡聞にして知らないが、どうやら好きに姿形を変えられるらしい。  その隣には地図が表示された電子ボード。投げ捨てられたように粗雑に置かれている。 「何しに来たのさ」  僕が来たことに気がついたが、テテさんは、さして敵意も害意も見せることなく、ただ素直に僕が来た理由を問うた。もうどうでもいいという自棄じみた投げやりな感情が、言葉の端々に感じられた。  泣いてるとは思わなかったけど、やっぱりクルウさんの言った通りか。まあこうなると、状況からして、そうとしか思えないしな。  息を吸う。  吐き出して、しっかりと僕は言った。 「勝ちに」  言葉が鋭く突き刺さる。  泣いている女の子に向かって言う台詞じゃないよな。
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