死番虫トロイメライ

5/21
前へ
/739ページ
次へ
 バドック・レッターダが彼女の仲間であった理由。  そんなもの高が知れている。どうせ熱烈なアプローチを仕掛けたとかそんなんで、きっとあの猫耳幽霊に「病めるときも健やかなるときも永劫共にその隣を歩もう」とかなんとか言ってのけたのだ。そして彼女が受け入れた。あまり人との交流に慣れていない彼女にしてみれば、それは煌(キラ)めいて見えたのかもしれない。 「あなたはただ勝ちたかったんじゃなくて、とある誰かのために勝ちたかったんじゃないですか?」  勝ってプレゼントがしたかった。  誰かのために。  誰かの喜ぶ顔が見たくて。  本当に相手が欲しいかなんてわからないけれど、自分にできるプレゼントは、こんなものくらいしかない。  けれど── 「もういない……。いない相手に、プレゼントなんか……できっこないんだよ。あいつと一緒なら、あいつのためなら……、そう思って私は! 私は…………」  言葉がだんだんと消えていく。  今にも泣きそうな顔で。  今にも叫んでしまいそうな顔で。  溢れ出しそうになる言葉を、口をつぐんで塞き止める。
/739ページ

最初のコメントを投稿しよう!

872人が本棚に入れています
本棚に追加