死番虫トロイメライ

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 両手で顔を覆う。  意を決したらしい。  もうほとんど涙声になっている。 「私の、負け──」 「まあ少し待て」  その声は現れた。  テテさんは顔を上げ、目を見開く。  そんな……なんでここに。  ──バドック・レッターダがそこにいた。  僕は慌てて眼鏡を確認するが、確かに軟体動物の表示は遠くにある。 「どうしてここに! だって、お前は逃げていたはずで!」 「ああ逃げていた、愚かな私の過ちからな」  致命傷こそなさそうなものだが、身体中傷だらけで、服もぼろぼろだ。自慢の金色の髪も、汚れや埃で光を失っている。 「はっ、眼鏡が……ない」  そこに本人がいると思わせ、バドの死を思わせたように、バドが遠くに逃げていると思わせることもまた、可能だったというわけか。おいおいクルウさんよ……、迂闊すぎるぜ。どうするんだ。これで──実は一ポイントも稼いでいないのがバレたぞ。
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