死番虫トロイメライ

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 揺れが大きくなっていく。やはり崩壊が近づいているらしい。 「急げヨーイチ君!」 「なんかその言い方、『およげたい焼きくん』に似てますね」  ふざけてる場合か、とクルウさんにたしなめられる。はっ、なんかもう、しっちゃかめっちゃかのてんやわんやで、一瞬意識がどこかへ行ってしまっていた。  まあとりあえず、一刻も早い脱出が望ましいようだ。僕とクルウさんは、急ぎ足で通路に向かおうと足を進めた。 「あ、ちょっと待ってください」  クルウさんに止められたが、僕は部屋に踵(キビス)を返す──バドがまだ、そこに座り込んでいた。 「おい、なにやってんだよ! 早くしないと!」  僕の叫びは、崩落を始めた瓦礫の音に掻き消される。 「約束したからな。ずっと、隣にいると」  バドは拳を握り、胸に強く押しあてる。彼女の温もりを、忘れないように。 「バド!」 「これ以上は危険だ!」  クルウさんに手を掴まれる。  そして──通路の天井が崩れ落ち、バドの姿は見えなくなった。
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