怪人と僕

20/58
前へ
/739ページ
次へ
 それにしても暗い。もはやこれは黒いといっても過言ではない。  闇。  夜が異様なまでに重い。まとわりつくような、へばりつくような、そんな重々しさ。今日は夜月もなければ星もなく雲に隠れてしまっている。光源は誘導灯と、窓から覗き見える数本の街灯だけ。しかしそれらは弱く、ぼうっと吸い込まれて消えていく。  不気味だ。  ──ポーン。  弾む音。  視界の端で何かが動くのがわかった。暗くてはっきりとは見えなかったが、グラウンドで何かが跳ねたように思えた。  やにわに首を左へ。  グラウンドの方に向けてみると、街灯の下に入り込んだそれが、まだ転がっている途中だった。  だからそれがボールであって、動いていて、そして木々は風に靡(ナビ)いておらず──周囲に誰もいないことが、判然としてしまった。 「嘘だろ……」
/739ページ

最初のコメントを投稿しよう!

872人が本棚に入れています
本棚に追加